- 請負契約ってなんだろう?
- 派遣と請負に違いはあるの?
- 派遣と請負はどっちがいいの?
派遣社員で働いている時に「請負契約」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
派遣社員が「請負契約への切り替え」を提案されたときには注意が必要です。
なぜなら、派遣契約と請負契約は全然違うものだからですね。
当記事では
- 「請負契約」とは
- 派遣と請負の違い
- 派遣社員が請負業者で働くときの注意点
- 派遣と請負それぞれのメリット・デメリット
についてわかりやすく解説していきます。
この記事を読めば派遣と請負の違いがわかり、トラブルに巻き込まれる前に対処できるでしょう。
請負契約は仕事を完成させる対価として報酬を得る契約のこと
「請負契約」という言葉は知っているけど、「詳しくは知らない」という人もいるのではないでしょうか。
「請負契約」は仕事を完成させる対価として報酬を得る契約形態のことです。
「請負契約」と似たような契約形態に「委任契約」があり、この2つの契約形態は総称して「業務委託契約」と呼ばれています。
「業務委託契約」「請負契約」「委任契約」の関係性を図で表すと次のようになります。
「業務委託契約」の一部である「請負契約」と「委任契約」はどのような契約形態なのか説明します。
- ●請負契約
- 仕事を完成させる対価として報酬を得る契約形態のこと。
- ●委任契約
- 法律に関わる行為の業務を行うことで報酬を得る契約形態のこと。業務は完成していなくても報酬を得られる。法律行為以外の一般的な業務を委任された場合は「準委任契約」という。
わかりにくいと思うので、例をあげて説明してみましょう。
自社のホームページの作成を業者に頼んだとします。
業者はホームページを完成させて発注者(自社)に納品し、その対価として発注者から報酬を受け取ります。
これが「請負契約」です。
一方「準委任契約(法律に関わる行為の業務ではないので)」は、ホームページを作っている過程に報酬が発生するため、ホームページが完成していなくても報酬を受け取れます。
「請負契約」や「委任契約」は民法上で定められた典型契約です。
「業務委託契約」という名称は民法上で定められた典型契約にはありませんが、「請負契約」「委任契約」「準委任契約」をまとめて「業務委託契約」といわれています。
個人請負労働者が増えている
働き方改革以降、個人請負労働者が増えています。
なぜなら、働き方が多様化し、副業での在宅ワークや自分で起業して働く人が増えているからですね。
個人請負労働者は、発注者と直接「請負契約」を結びます。
労働者にとっては、仕事の選別や自分の得意な分野の仕事ができ、発注者にとってもコストが抑えられることに加え、質のいい仕事をしてもらえるメリットがありますよ。
そのため、今後さらに個人請負労働者は増えると予想されています。
「派遣」と「請負」の違いは主に4つ
「請負契約が何かはわかっても、派遣と請負の違いはわからない」という人もいますよね。
「派遣」と「請負」の違いは主に4つあります。
- 業務の指揮命令を出すところが違う
- 派遣は「人材補充」を、請負は「完成品の納品」を目的としている
- 派遣社員は労働者派遣法で守られている
- 請負で収入を得たときには確定申告をする必要がある
それぞれの理由について解説していきましょう。
1.業務の指揮命令を出すところが違う
派遣契約と請負契約は、業務の指揮命令を出すところが違います。
- ●派遣契約
- 派遣先企業が派遣社員の業務に関する指揮や命令を出します。
- ●請負契約
- 労働者は発注者から業務の指揮を受けることはありません。
派遣社員は、派遣会社と雇用契約を結び派遣先企業で働きます。
何の仕事をすればいいか、どのように仕事をすればいいかなどの指示は「派遣先企業」から出されますよね。
一方、請負契約は発注者の指示を受けることなく、業務を行います。
わかりにくいので「請負契約」の具体的な例をあげて説明しますね。
たとえば、自分が家を建てるとしましょう。
初めに、建築会社と「請負契約」を結びます。
契約をしたあと発注者(自分)は、建築会社の社員に「出勤時間」や「家の建て方」などの指示は出しませんよね。
そして建築会社は、家を完成させて発注者(自分)に家を引き渡します。
つまり「発注者(自分)」は、「請負契約」を結んだとしても「請負業者(建築会社)」に業務の指示や命令は出せないわけです。
「派遣契約」「請負契約」のそれぞれの関係は下記の図のようになります。
【個人請負労働者が「請負契約」をした場合】
2.派遣は「人材補充」を、請負は「完成品の納品」を目的としている
2つ目の違いは、派遣は「人材」を、請負は「納品」を目的としているところです。
- ●派遣契約
- 派遣先企業の人手が足りない部分を派遣社員で穴埋めしている。
- ●請負契約
- 完成品を納品することが目的になっている。
派遣社員は派遣先企業の指示命令のもと時給制で働いています。
派遣先企業は自社の足りない人材を派遣社員によって穴埋めしているため、業務が完成するかどうかは関係なく、派遣社員は報酬を受け取れます。
一方、請負契約の場合は依頼されたものを完成させて納品しなければ報酬を受け取れません。
3.派遣社員は労働者派遣法で守られている
派遣社員は労働者派遣法に守られています。
派遣社員は正社員と比べると安定性にかけて、年収差もあるデメリットを緩和させるためですね。
派遣社員は労働者派遣法によって、
- 賃金
- 福利厚生
- 派遣社員の権利
などが保護されています。
一方で個人の請負労働者には、「労働者派遣法」や「労働基準法」は適用されません。
そのため、福利厚生や社会保険などはなく、賃金も自分で交渉しなければいけません。
4.請負で収入を得たときには確定申告をする必要がある
請負で働き収入を得たときには、自分で確定申告をしなければいけません。
所得税などを給料から天引きされている会社員と違い、収入を受け取った時点では税金を納めていないからですね。
請負契約で得た収入から必要経費を引いた金額が年間48万円(会社に勤めながら、副業として請負契約での仕事をしている場合は、20万円)を超えている人は、確定申告をする必要があります。
一方で派遣社員は、派遣元となる派遣会社が年末調整をしているため確定申告の必要はありません。
派遣社員は偽装請負になりやすい
派遣社員は「偽装請負」になりやすいので注意が必要です。
なぜなら、仕事の指示をどこから受けているのかがわかりにくいからですね。
たとえば、以下2つの企業があったとします。
- 派遣会社から紹介された派遣先企業を「A社」
- 派遣先企業と請負契約している企業を「B社」
派遣会社からは「A社」を紹介されたのに、実際は「A社」と請負契約をしている「B社」で働いていて、仕事の指示や命令をB社から受けていたら「偽装請負」になります。
しかし、上記の場合でも仕事の指示や命令をA社から受けていたときには「偽装請負」にはなりません。
わかりにくいかもしれませんが、「偽装請負」になるかのポイントは「どこから仕事の指示を受けているか」です。
どのような構図になるのかは下の図をご覧ください。
「偽装請負」は違法行為となります。
なぜなら、二重派遣になるからですね。
「二重派遣」も「偽装請負」も違法です。
ではなぜ「偽装請負」は行われるのでしょうか。
「偽装請負」が行われるのには次のような理由があります。
- 社会保険の費用負担を軽減するため
- 社員に関する労働安全衛生の責任を回避するため
「偽装請負」をすると、A社は費用や責任面でメリットがあるというわけですね。
上記ケースの場合、派遣社員自身は気がつかないうちに「偽装請負」に巻き込まれてしまうこともあります。
外部からは「どこから仕事の指示を受けているのか?」が、わかりにくいためです。
「偽装請負」と判断されてしまったときには、A社・B社双方に次のような罰則が科されます。
- 1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
「偽装請負」と判断されたときでも派遣社員や派遣会社は罰則を受けることはありません。
なぜなら、「偽装請負」は派遣会社が知らないうちに派遣先が勝手に行っているものだからです。
しかし、派遣会社から紹介された企業と違う企業で働くときには十分注意するようにしてください。
「二重派遣」についての詳しい説明は「二重派遣は罰則のある違法行為|回避方法と相談窓口を知る」の記事を参考にしてください。
「派遣」「請負」「出向」はそれぞれ雇用契約が違う
と思う人もいるのではないでしょうか。
「出向」は出向元企業に雇用されている社員が、出向先企業へ出向し勤務する働き方です。
働き方は派遣や請負と似ていますが、「派遣」「請負」「出向」それぞれで違いがあります。
「派遣」「請負」「出向」は雇用契約の結び方が違うからです。
「派遣」「請負」「出向」雇用契約の結び方
- ●派遣
- 派遣社員は、雇用契約を「派遣会社」と結んでいます。
- ●請負
- 「請負」で働いている個人請負労働者は、発注者との間で雇用契約は結びません。
- ●出向
- 出向社員は、「出向元企業」と雇用契約を結びつつ、「出向先企業」とも雇用契約を結んでいる場合もありますが、「在籍出向」といいます。
「出向」はグループ会社や提携している企業間で行われることが多いという特徴を持っています。
「出向」を図で表すと次のようになります。
「派遣」「請負」「出向」の違い一覧表
「派遣」「請負」「出向」の違いを一覧表でまとめてみました。
派遣 | 請負 | 出向 | |
---|---|---|---|
雇用契約 | 派遣会社 | なし | 出向元企業と出向先企業の両方 |
雇用期間 |
3ヶ月~半年程度数ヶ月単位 最長でも3年 |
なし | 年単位が多く長期間の場合もある |
労働時間 | 契約ごとに決められている | 決められていない | 出向先の就業規定に準ずる |
仕事の指揮命令 | 派遣先企業 | 受けない | 出向先企業 |
派遣から請負契約への切り替えのメリット4つ
派遣社員で働いた経験がある人の中には「請負契約に切り替えないか」と提案を受けた人もいるのではないでしょうか。
派遣から請負へ切り替えたときの主なメリットは4つあります。
- 長期間働ける
- 得意な分野で働ける
- 仕事のやり方など自分で決められる
- 高収入を得ることも可能
それぞれの理由について順番に解説していきますね。
1、長期間働ける
派遣契約から請負契約へ切り替えたときの1つ目のメリットは、長期間働けることです。
なぜなら、派遣社員には同じ部署で3年を超えて働けない「3年ルール」があるからですね。
どんなに職場や仕事が自分に合っていても派遣社員であれば、派遣先企業が直接雇用をしてくれない限り、3年を超えて働くことはできません。
しかし、請負契約を結び個人事業主としてであれば、相手先の企業が希望する限り期間を気にすることなく3年を超えて働くことも可能です。
2、得意な分野で働ける
2つ目のメリットは自分の得意な分野で働けることです。
やりたくない仕事は無理に受けなくてもいいからですね。
派遣社員もある程度は仕事を選ぶことはできますが、紹介された仕事を「気に入らないから」と断ってばかりいると、最終的には仕事を紹介されなくなってしまいます。
しかし、請負契約であれば自分の得意なことを仕事にできて、仕事を選ぶこともできます。
好きな仕事ができるのは、やる気にも繋がりますよね。
3、仕事のやり方など自分で決められる
請負契約は仕事のやり方や勤務時間などを自分で決められます。
なぜなら、前にも述べたように仕事に関する指示を発注者から受けることはないからですね。
派遣社員の場合は、勤務時間は決まっていて派遣先企業の指示を受けて仕事を行います。
一方で、請負契約は、指定された期限までに完成したものを納品すればいいので、「今日は休んで明日8時間働く」「朝は苦手だから夜中に仕事をする」といった働き方もできます。
4、高収入を得ることも可能
4つ目のメリットは、請負契約は、高収入を得ることも可能なことです。
スキルや実力が収入に直結する契約形態だからですね。
派遣契約では、派遣社員を募集している時点で時給が決まっているため、誰が働いてもその時給以上にも以下にもなりません。
しかし請負契約は、スキルや能力の高さによって支払われる報酬が違います。
そのため実力が認められれば、高収入を得ることも可能です。
派遣から請負契約への切り替えのデメリット4つ
反対に派遣契約から請負契約へ切り替えたときのデメリットを4つ紹介します。
- 社会保険や福利厚生がない
- 報酬の交渉やトラブルを自分で解決する必要アリ
- 安定性に欠ける
- 自分で確定申告をしなければいけない
それぞれの理由について解説していきます。
1、社会保険や福利厚生がない
請負契約で働いている人には、社会保険や福利厚生などの保障がありません。
なぜなら、個人事業主になるため、労働基準法などが適用されないからです。
派遣社員は条件を満たしていれば、社会保険に入れて、手続きも派遣元である派遣会社がやってくれます。
社会保険に加入できると次のようなメリットがあります。
- もらえる年金が増える
- ケガ、病気になったときには手当がもらえる
- 保険料の半分を会社が出してくれるため自己負担を抑えられる
一方、請負契約で働いている個人事業主には上記のような保障はないので、「何かあった場合にはどうするか」を日頃から考えながら仕事する必要があります。
2、報酬の交渉やトラブルを自分で解決する必要アリ
2番目のデメリットは報酬の交渉やトラブルが起きたときでも自分で解決しなければいけないことです。
派遣社員に何かあったときには、派遣会社が相談を聞いてくれたり、間に入って交渉してくれたりしますが、個人事業主にはそのような存在がいないからですね。
報酬の交渉はもちろんのこと、契約先とトラブルになったとしてもすべて自分で解決しなければいけません。
交渉が苦手な人や自分の意見を強く言えない人にとっては、慣れないうちは大きな負担に感じるでしょう。
3、安定性に欠ける
3つ目のデメリットは、請負契約は派遣以上に安定性に欠けることです。
積極的に動かなければ、継続的に収入を得られないからですね。
派遣社員も有期契約なので、契約期間が終わり更新してもらえなければ次の仕事を見つけなければいけません。
しかし派遣会社に登録しているので次の仕事先も見つけやすく、紹介予定派遣を選べば正社員になることも可能ですよね。
一方で請負契約は案件ごとの契約なので、継続的に受注できるとは限りません。
継続的に仕事を得るためには、自分を売り込むことに加え、スキルや実績を積む努力が必要となります。
請負契約を受けた先の常駐で働くときには、「こうやってほしい」などの仕事の指示を受けやすく「偽装請負」になりやすいです。「請負契約」では、発注者から仕事の指揮・命令を受けられないと覚えておきましょう。
4、自分で確定申告をしなければいけない
最後のデメリットは自分で確定申告をしなければいけないことです。
請負契約で働いている人は、自分で所得と経費を管理しているからですね。
派遣社員は、所得税などの税金を給料から天引きされているため確定申告の必要はありません。
一方で、請負契約で得た収入は、税金が引かれていないため確定申告をして納税額を算出する必要があります。
確定申告をする際には、経費として使った分の領収書などが必要となります。
1年分の経費にかかった書類の管理をしたうえで、年1回決まった時期に申告しなければいけないのは、わずらわしさを感じる人もいるでしょう。
まとめ
派遣社員が紹介された派遣先企業と違う企業で働くことになったときには、「偽装請負」になる可能性があるため注意です。
派遣と請負の大きな違いは
- 仕事の指揮・命令がどこから出ているのか
です。
派遣会社や派遣先企業は、雇用関係がなく会社側に社会保険料の負担や責任を負う必要がない、「請負契約への切り替え」を提案してくることがあります。
派遣、請負ともにメリット・デメリットありますが、特別なスキルや実力がなければ請負契約で働くのは難しいです。
派遣と請負の違いを知り、「請負になったけど失敗した」「気づかないうちに偽装請負になっていた」ことがないように注意しましょう。
多様な働き方が認められている昨今、個人事業主やフリーランスとして活躍する方も増えてきたように感じます。
しかし、正社員であれ派遣社員であれ”会社に雇用される”ということは、収入以外の面でも、個人事業主等に比べると一定の安定が保証されています。
”会社に雇用されない”という働き方について、派遣社員のメリット・デメリットをしっかり理解して、自分のライフプランにあった働き方を選択できるようにしていきましょう。
当記事は、次のお二人に監修いただいております。
社労士事務所志 代表
村井志穂(むらいしほ)氏
【社会保険労務士会登録番号】第23210035号
【愛知県社労士会登録番号】第2313540号
椙山女学園高等学校 椙山女学園大学卒業
人事労務関連のソフト会社に入社後、カスタマーサポート・マーケティング・システム開発に携わる。
社会保険労務士資格取得後は、システムエンジニアとして勤めつつ、自身の事務所を開業。システム開発の経験を活かした、Office製品を利用した業務効率化ツールの提供も行っている。
司法書士・行政書士いとう法務事務所
代表 伊藤祐基氏
愛知県にある名城大学を卒業後、信販会社にて債権回収や営業職に従事する。
そんな中、家族間で相続トラブルが発生し、自身もそのトラブルに巻き込まれる。
そこから法律に興味を持ち、宅建士、行政書士、司法書士の資格を取得する。
また法律だけでは根本的な解決できないことに気づき、家族間や親しい間柄のコミュニケーションの取り方を学んでいる。
法律とコミュニケーションの双方を用いて少しでも争いごとを減らしていくことをモットーに日々の業務に取り組んでいる。